第13章 双極性障害治療一般原則 v2.0
----------◎ここがポイント◎---------------------------------
・双極性障害治療の基礎は2つの教えである:気分安定薬は常に使え。抗うつ薬はほんとうに必要な時だけ使え。
・「貧しき者の気分安定薬」方式を廃止すべし。つまり抗精神病薬プラス抗うつ薬はダメ。
・短期間だけを見ることが原因で、双極性障害治療の主な誤りが生じる。つまり急性うつ病や急性躁病にだけ着目していてはいけない。
・注目すべきは長期経過である。躁うつの再発を予防する。これが可能なのは気分安定薬だけである。抗うつ薬や抗精神病薬では不可能である。
・急性期治療を延長しても長期治療の方針にはならない。逆も言える。おとぎ話なら、一つの困難が終わったら、「ずっと幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし 」となるところだが、現実には双極性障害では長い維持療法が待っている。最初の成功でずっと維持できると考えるのは誤りである。
・あなたの思考から「うまくいっているなら変えるな」の格言を消去せよ。急性うつ病や急性躁病に対する急性期治療は、一般に急性期が終了したら中止すべきであり、長く続けるべきではない。逆に、気分安定薬は長期に使って効果があるもので、概して短期効果はない。
・たいていの双極性障害では治療開始は気分安定薬を使う。単独又は併用で使うが、その際、抗うつ剤併用する人が多いだろうがこれは誤りである。抗うつ薬は自殺の危険があるときなどを除いて使わないほうがいい。
・抗うつ薬を使う時は主に急性大うつ病エピソードに限る。そして急性うつ病エピソードから回復� ��たら減薬する。
・双極I型で使われる気分安定薬は4種である。リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン。
・気分安定薬に上乗せする薬で重要なものは、非定型抗精神病薬と新規抗てんかん薬である。
・非定型抗精神病薬は気分安定薬ではない。双極I型に単独で使ってはいけない。前述4つの気分安定薬のどれかと併用すること。
・双極性障害があって長期間治療されている慢性うつ病と、実存的絶望を鑑別せよ。いずれの場合も、絶望を癒すのは時間と対人関係である。抗うつ薬ではない。
-------------------------------------------------------------
双極性障害の治療は単極性うつ病の治療より複雑です。まずそこの把握からですね。
単極性うつ病だと、治療の選択肢といっても、抗うつ薬かつ/また� �精神療法でしょう。
もし効果が充分でないとか治療に反応しないとかでも、ほぼ同じ(つまり、抗うつ薬をふやす。量を増やすとか、種類を増やして多剤併用するとか)。
でも、双極性障害だと病気の本質そのものがもっと複雑なんです。
単極性うつ病だと、その人は、病気(うつ病)か元気かの2つでしょう。
双極性障害だと元気は一種類だけ(つまり正常気分)だけど、病気の時といっても無数にある(たとえば、うつ病、躁病、混合状態、急速交代、これらの組み合わせ)。
双極性障害のときの気分症状を治療するとして、それは普通、健康にすると言うより、別の種類の病気にしてしまっていることが多いんです。
双極性障害のうつ病の人は、抗うつ薬をもらうのが普通だと思われていると思うけど、そうすると 躁病になる人が多いよね。双極性障害で躁病の人だと、こんどは抗精神病薬をもらうでしょう。するとうつ病になっちゃう。躁転したり、うつ転したりしているわけです。
気分安定薬を使った場合は、そんなに極端に気分が振れてしまうことはないんだけど、それでも、躁病がなくなったらうつ病が残っていたという場合が多いですね(逆にうつ病がなくなって躁病が残ったというのはめったにない)。
うつ病でも躁病でもない真ん中(golden mean)の気分に調整するというのは、案外難しくて、哲学者アリストテレスが考えたより難しい。
アリストテレスは、中庸 golden mean が大事と言ったギリシャ哲学者。理想的だけど現実には難しい、そして両極端の真ん中だからここで golden mean というわけです。
そういう事情なので、双極性障害の治療では、正常気分が最終的なゴールになる。実際は難しいけど。
次に述べるようないくつかの「一般原則」がなにかのヒントになって、この問題にアプローチする助けになればいいと思うのでがんばって書いてみる。また、これが続くいくつかの章で論じられる詳細の理解の助けになればいいと思う。
1.急性期治療を続ければ適切な長期治療になるわけではない。逆も同じ。「うまくいっているなら、変えるな」っていう格言は忘れてしまおう。最初の成功体験を変えられない人は多い。
躁病とうつ病の急性期治療は、急性期が終わったら、原則として中止すべきだ。長期に続けていいものではない。
対照的なことだけれど、普通長期に使用する気分安定薬は 、原則として、短期効果はほとんどない。
以前7章で論じたことだけれど、以下でもう一度書いて確認してみよう。
例の無能なFDAは、例のオランザピンとアリピプラゾールが、双極性障害の維持療法に適応があるとしているんだけど、本当は、抗精神病薬には双極性障害に対する予防効果の厳格なエビデンスがないんですよ。
したがって、抗精神病薬は気分安定薬の定義を満たさないっていうのが結論です。
また18章で論じるんですが、抗うつ薬は双極性障害のうつ病予防には無効であることが証明されているんです。
【抗うつ薬がうつ病の予防に効かないって、不思議でしょう。うつ病が、セロトニンが足りないという状態であるなら、予防的に、セロトニンを増やしておいたら、うつ病になりにくいはずなんで� �けれどもね。だからDAM理論なんです。DAM理論だと抗うつ薬はうつ病予防に効きません。うつ病予防に効くのは、躁病を予防する薬なんです。】
抗精神病薬も抗うつ薬も、急性躁病と急性うつ病にはおそらく有効なんだけど、でも、双極性障害の気分エピソードを長期にわたって予防する効果はないんです。
これと対照的なのがラモトリギン(ラミクタール)ですね。
ラモトリギンは気分安定薬の原型でもあり模範でもあるようなお薬です。
ラモトリギンも急性期にはうつでも躁でも混合状態でも効きません。二重盲検試験がいくつもあって、プラセボと同等ということが証明されています。
同じことがリチウムとバルプロ酸にも言えるんです。抗うつ薬や抗精神病薬に比較すると、これらの気分安定薬の躁病とうつ� �に対する急性期効果は厳密に言うと弱いんです。
うつ病には抗うつ薬が、躁病には抗精神病薬が、ブレーキとしては優れている。ところがいったんブレーキをかけて止めたら、そのあとはもう怖くなって、ブレーキを外せないわけ。で、ブレーキかけっぱなしで、逆の病気が出てしまう。
抗うつ薬を急性うつ病を過ぎても使い続けて躁転する。
抗精神病薬を急性躁病が過ぎても使い続けてうつ転する。
抗うつ薬と抗精神病薬で下と上からサンドイッチみたいにして挟んで、上にも行かない、下にも行かない、その制限の間で、moodが動くようにするという考えもあるが、それは「貧しき者の気分安定薬」というもので、やはり、気分安定薬を使ったほうがいい。
抗うつ薬と抗精神病薬が
サンドイッチの壁にな� �てくれているのか(それならば有益)、
あるいは、下方圧力と上方圧力になっているのか(それならば有害)、
難しいところでしょう。
急性期のブレーキ効果に関しては、気分安定薬は強くない。でも、長期効果に関しては気分安定薬は優れている。
リチウムとバルプロ酸は抗うつ薬と抗精神病薬よりも長期予防効果があることが、はるかに厳格に証明されている。
2.長期的な視野で考えなくちゃダメ。
双極性障害は長期にわたる病気なんだから。
急性うつ病だけとか急性躁病だけとかではなくて、いつでも、病気の経過全体を見て治療するようにしよう。
患者さんが医師のところに来るのはさしあたって今困っている症状を何とかして欲しいからです。
すぐよくして下さいという患者さんの願いを くみ取って、診断して治療します。
経過観察していても治るものなら特に何もしなくていいですよね。
治らないものなら診断しても特にいいこともないですね。
がんのように余命が分かったら人生を有意義に生きることができるから、診断だけでも有意義だという場合もありますが。
ヒポクラテスは治らない病気も自然の一部なんだから、それは受け入れようという考えでしょう。
禁煙のための簡単な戦略
ここでは、患者さんにお願いされて、医師として何とかしましょうという場合、治療可能なものについて診断して治療するという、ヒポクラテス的な感覚が必要なんだろう。治療不要と治療不可能は別枠。
双極性障害の場合、診断としては、この病気は長期にわたり、再発性で、病気が消えてなくなることはないでしょうというものになる。これはつらいですよね。
医師はこの診断を回避してしまう場合がある。だって、患者さんにこんな重い十字架を背負わせたくないもの。
医師は少しでも他の診断の疑いがあれば、双極性障害の診断は伝えないで済ませたいところなんです。
そんな風に口を閉ざしてしまうところが不幸な感じだし、ヒポクラテスの 誓いに反している。
医師は正直でなくっちゃ。そして勇気を持って、重症の病気でもきちんと診断して患者さんに伝えた方がいいです。
重症なのにきちんと伝えないであたかも軽いものであるかのように治療しているとすれば、患者さんには迷惑ですね。
双極性障害は長期にわたる、再発性の病気なんですから、そういうものとして扱った方がいい。
とりあえずの症状緩和だけではすまないでしょう。長い目で見て治療して、再発を予防しないといけません。
それができるのは気分安定薬だけです。
ですから、急性期治療に抗うつ薬や伝統的抗精神病薬を使うのもまあ、仕方ないという意味で、いいんでしょうけれども、気分安定薬をもっと積極的に使うべきなんです。
3.急性躁病の治療は攻撃的に徹底� ��にした方がいい。でも一方で、維持期に躁病を防ぐ薬を調整しておくべきです。
急性躁病や急性うつ病ではとにかく治療しなくてはいけないのは当然です。
どちらもそうですが、特に急性躁病では、即効性の対処が必要です。
自傷他害が重症の形で起こることがありますので。
医師は全力で、入院を含めて、全ての努力をすべきです。
急性躁病は薬物治療によく反応してくれます。
でも、未治療でも、平均して2-4ヶ月で解決します。
数週間服薬すれば効果が出ますから、未治療だと数ヶ月続くはずの急性躁病の症状をどうやって短く少なくするかが問題です。
急性躁病エピソードはそう時間がたたないうちに解決しますので、何とかしのげるのは確かなんです。しかし、一時しのぎができたからい いやという態度はやめて、患者さんと医師がきちんと向き合って、今後の治療をどうするかを決定することが大切です。
もし急性期の治療で抗躁病薬が多剤使用されているときには、躁病の時期が終わると副作用をいろいろと感じると思います。
維持期になると数年から数十年単位の治療になりますから、必要最小限の薬にしておくことはとても大切ですし、患者さんもそのように希望すると思います。
医師は患者さんと協同して、実証的知識の範囲内で、しかも常識の範囲内で、必要最小限の薬に絞るという問題に取り組みます。
一般に、気分安定薬による予防治療がうまくいっていれば、重症急性躁病エピソードもないわけですし、いったん増えた薬を減らす工夫をしないといけない場面も少ないでしょうから、そ れが目標になります。
4.抗うつ薬には要注意
双極性障害の場合に抗うつ薬の予防効果は証明されていません。
そして長い目で見ると、抗うつ薬を使い続けて気分エピソードを何度も経験するうちに、ラピッド・サイクラーになってしまうことがあるんです。これは要注意でしょう。
一般に抗うつ薬を使うのは双極性障害の中でも重症の急性うつ病に限定した方がいいですね。
自殺の危険が高いとか、複数の気分安定薬を併用しても治療抵抗性だとか、そんな場合に限定した方がいいでしょう。
私の経験で言うと、双極性障害のうち約20%は長期抗うつ薬が必要、約30%は短期の抗うつ薬で十分です。
わたしのアプローチは一般に行われているよりも慎重だと思います。
現在では、一般には、双極性障害の 患者さんの約80%は、抗うつ薬で治療されていると思います。
そしてその大部分は長期投薬になっていると思います。それがアカンでしょうと私は思うわけなんです。
18章では私は双極性障害に抗うつ薬を使うリスクについて詳細に論じるつもり。
5.いたちごっこにならないように。うつ病に抗うつ薬を使うと躁病やラピッド・サイクラーになることがあるので注意。そこに抗躁病薬を使って、今度はうつ病になるので注意。そしていたちごっこになる。
この原則は第一の原則の帰結ですね。
ここで付け加えると、伝統的抗精神病薬は抗うつ薬とは逆の問題があるようです。
つまり、抗うつ薬が急性躁病を引き起こすのと同じように、伝統的抗精神病薬は急性大うつ病を引き起こす可能性があるんです。
つ� �り言葉を換えて言えば、伝統的抗精神病薬は純粋に抗躁病薬であって、気分安定薬ではないんです。
抗うつ薬だと、うつ病から気分を持ち上げて、そのまま躁病になる危険があるでしょう。
同じように、伝統的抗精神病薬だと、正常気分付近で安定させるというのではなくて、うつ病に突っ込んでしまうわけです。
このあたりでうまく働いてくれるのは唯一、気分安定薬なんです。
気分安定薬だと、うつ病にしないで躁病を治すことができるし、逆に、躁病にしないでうつ病を治すことができる。いいでしょう、これ。
この分野では、新型の非定型抗精神病薬は、急性大うつ病に誘導してしまうリスクが伝統的抗精神病薬に比較してやや小さいんですが、やはり大うつ病エピソードはある程度の割合で、起こるん� ��す。
そこで大事なことなんですが、医師が急性うつ病や急性躁病の片方を治療しようとしているとして、片方だけに注意を奪われていると、双極性障害の患者の場合、躁病とうつ病の片方から片方に、すっかり変化してしまうリスクがある程度あるわけなんです。躁転、うつ転と呼びます。
そのような「いたちごっこ」を避けるために、治療の中心に気分安定薬を置くべきです。
--------●症例スケッチ●-------------------------------------
40歳男性が複数の気分安定薬と抗うつ薬と抗精神病薬で治療を受けていたが、ここ3ヶ月以上不安定が続いていた。
うつ病を主訴として来院し、質問に答えて、今回のうつ病は2ヶ月続いている。その前の2週間は軽躁病があった。去年は2回のうつ病があって持続は2ヶ月。あと、躁病の� �期が1週間あった。
診断はラピッド・サイクラー。
リチウム、バルプロ酸、セルトラリン、ブプロピオン、オランザピンを服用。リチウムとバルプロ酸を残してすべての薬を2週間中断した。
良くも悪くもない。
次の一ヶ月、うつ病は次第に気分が持ち上がり、リチウム+バルプロ酸を続けた。
次の年はうつ病は一回だけ。そのときは1ヶ月だけパロキセチンを飲んだ。リチウム+バルプロ酸で長期維持できている。
-------------------------------------------------------------
6. 双極性障害では気分安定薬を加えた多剤併用が適切です。
そんなわけで双極性障害治療では気分安定薬が積極的に使われるべきだと考えるわけです。
多くの研究で分かっていることなんですが、たとえばリチウムなんかでもいいんです� ��、一種類の気分安定薬に完全に反応して寛解に至るっていうことはあまりなくて、せいぜい双極性障害の1/3程度でしょうかね。
気分安定薬の単剤治療に反応して寛解すること、もちろん全部の患者さんでその可能性を追求すべきです。それが一番いいんですから。
でも、たいていはそうじゃないので、併用療法が必要になります。
治ってないのに単剤がいいんだとか信念を貫く医師もいるんでしょうが、私には信じられない。なるべく治したほうがいいんじゃないかな。
--------------●キーポイント●-------------------
気分安定薬を加えて併用療法にすると、反応する患者さんが多くなって、だいたい比例する感じで増えるんです。気分安定薬を単剤から2つか3つに増やすと、反応する患者さんは33%から50%ー60%に増える� ��じです。
---------------------------------------------------
つまり、繰り返して言いますが、双極性障害では多剤併用が適切です。
でもそれは気分安定薬について組み合わせようということ。大部分のケースでは、抗うつ薬は多剤併用の中に混ぜないほうがいいです。組み合わせをうまくすれば副作用を少なくできますから、細心の工夫をしてください。
たいてい、お薬の教科書では「単剤処方にしなさい」と全く無責任に書いてあるだけですよね。
それはもう全くヤル気のない、防衛的な態度というものです。
マニュアル通り。
膝の後ろの痛みsquating
患者なんかどうなっても仕方ない、出来るだけのことはするけれど、寿命だし、運命だ、あとで責任を取らされたらどうする、単剤でやっていれば良心的だし勉強しているように見えるよね。
原因は1つなら、その原因に効く一つの薬でいいはずだという原理主義者ですね。
多剤併用は金儲け主義と思っている人もいるし、苦労して考えて、いいことなんか1つもないんだわ。
患者は重症扱いはされたくなくて、軽症扱いしてくれる医師を好む面もある。正確な診断が嫌われることもあるんです。
柔整鍼灸マッサージで言われた診断をなにか言い続ける患者さんもいるんですが、ノーコメントですよね。
薬なんか使わなくても治ると患者は言われた� ��ですよね。トム・クルーズみたいに、薬なんかやめろと言って歩いたら気分爽快な感じもしますがね。科学を考える心がある以上、当然、できません。
抗うつ薬は同じ働きだから一種類でいいとか、安定剤は一種類でいいはずだとか、抗うつ薬と抗躁病薬は作用が逆なんだから併用すると無意味だとか、いろいろな考えがあるらしいんだが、アカンですね。
7. 標準気分安定薬の次に使用すべきは非定型抗精神病薬と新規抗てんかん薬である。
私の定義では標準気分安定薬はリチウム(リーマス)、バルプロ酸(デパケン)、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン(ラミクタール)なんですが、これを第一選択として、効果が足りないときに、何かを併用したいわけです。
併用のために選んだ薬剤には気分安定作用の上 乗せを期待するわけですが、それはあくまで標準気分安定薬の4種に上乗せすべきであって、単独で用いるべきではないと思います。
上乗せに使う二種の薬剤としては非定型抗精神病薬と新規抗てんかん薬です。
概してこれらの薬剤は双極性障害の急性うつ病と急性躁病の時だけに有効であり、予防には役に立たない。
したがって、これら二種の薬剤は気分安定薬の保守的な定義からいえば、気分安定薬とは言えない(7章)。
しかしこの二種は標準抗うつ薬や伝統的抗精神病薬よりも有効であると思われる点があるんです。
この新しい二種の薬剤群はうつ病や躁病治療に際して、躁転やうつ転のリスクが低いようである。
この点で、気分安定上乗せ効果があるようだ。
将来の研究がこれら新規薬剤の中の一� �が標準気分安定薬に含めて良いものだと証明することがないと言うことではない。将来は別。
すでにラモトリギンは急性双極性障害のうつ病に対して有効であり、さらに双極性障害の予防に有効であることが証明されている。
この急性期効果と長期予防効果がラモトリギンが標準気分安定薬であることを示している。
こうしたデータは他の薬剤について将来現れるかもしれないが、現在までのところ証明されていないし、だからこそ、私はこれらの新規薬剤を双極性障害(少なくとも双極Ⅰ型)に単独で使用することを推薦しない。
しかし、標準気分安定薬に上乗せして用いるなら、これら薬剤は多剤併用した際に、治療反応を強く増強する可能性がある。
非定型抗精神病薬と新規抗てんかん薬は双極性障害治療に� �命をもたらしている。
結果として、これら薬剤は10年前よりはずっとよい治療選択肢を患者に与えている。
8. 第一選択気分安定薬は、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン。双極性障害の短期治療と長期治療の両方で効果が証明されている。
気分安定薬の定義にもいろいろ考えられるんですが、すでに紹介したように保守的定義というやつで考えると、急性うつ病と急性躁病に有効で、かつ、両方の予防に有効な薬剤、ということになる。私はそれを採用したいんです。
すでにあげた4つの薬だけが充分な実証的データを備えている。つまり、比較対象試験があり、充分な臨床経験の蓄積もある。
双極Ⅰ型で私が推薦したいのは、4つのうちどれか1つを主な気分安定薬として選択することです。
双極Ⅱ型ではデータはずっと少ないのだが、そもそも自発的に躁病エピソードが起こるものではないので、気分安定薬の定義をもうすこし革新よりに考えてもいいところだ。
そこで双極Ⅱ型では、4つのほかに、新規抗てんかん薬、たとえばガバペンチン、トピラメートを上記4つとの併用ではなく使ってもよいように思う。
しかし私が思うには、原則として上記4つの薬剤の1つを基本にして多剤併用を組み立てるのが重要だ。
そうしないと薬剤選択はベストな組み合わせにはならず、不安定な土台に上に家を建てるようなことになるだろう。
9. 「貧しき者の気分安定薬セット」をやめましょう。つまり、抗精神病薬に抗うつ薬をセットにするのはやめましょう。
多くの医師の誤った信念は、抗精神病薬は気分安� ��薬だと思っていること。7章できちんと説明したつもり。
この誤解も実は理解できるものなんです。
あのダメなFDAが一部抗精神病薬に対して双極性障害の維持療法に適応を認可しているんですから。
でも私がすでに明確にしたように、こうした適応指定は科学的に妥当ではないんです。適応を指定された抗精神病薬には長期予防効果はないんですから。
医師の多くはこのことを知らないか、または知っていても反対なので、双極性障害の患者の多くは真の気分安定薬なしのまま、抗精神病薬で治療されている。
でも、抗精神病薬は単純に抗躁病薬であってうつ病症状にはあまり効果がない。むしろうつ病に突入させる。
結果として、医師はうつ病症状が存在したり継続している場合に抗うつ薬を加えたくなる� ��それが誘惑。
すると患者には抗精神病薬と抗うつ薬の組み合わせが継続されることになる。
これが「貧しき者の気分安定薬」である。
だって本物じゃないから。
この組み合わせだとたいてい長期の安定は達成できないので、回避がベスト。
-----●症例スケッチ●--------------------------------------------
32歳女性、セカンドオピニオンを求めて来院。
毎年秋になると大うつ病、夏になると軽躁病。
最初にジプラシドンを飲んでみたのが去年の夏。
軽躁病は改善したが、秋になってうつ病が再発。
エスシタロプラムが上乗せされて改善。
しかし次の年、ふたたび軽躁病になった。
過去に二度の躁病エピソードを経験し、衝動買いあり、
しかし入院はなく精神病性症状でもなかった。
既婚で、二人の子供は小さくて、本人の教育は高かった。
医師は両方の薬を中止して、リチウムまたはラモトリギンで治療してはどうかと提案した。
患者は体重増加を恐れて、リチウムよりもラモトリギンで治療したいと考えた。
そのアドバイスを持って処方してくれている主治医のところに行ったところ、
処方医師は反対し、ジプラシドンという気分安定薬をすでに飲んでいるからそれでいいと言った。
患者の夫がコンサル医に電話してきて、誰を信じればいいのかと言った。
ジプラシドンには予防効果がないのだから気分安定薬ではないのだと説明した。
しかし患者と夫は、最初に良くなったのはジプラシドンのおかげだし、続けたほうが多分いいのではないかと考えた。
患者は同じ組み合� �せの薬剤で治療を続けた。
しかし依然として、年に一回重症の大うつ病があり、その中間に軽躁病エピソードがあった。
患者はコンサル医を処方医師とし、ジプラシドンとエスシタロプラムを中止し、ラモトリギンを飲んだ。
やがて来た冬には、短くてあまり重症ではないうつ病期間があった。軽躁病はなかった。
次の年にはラモトリギン単剤療法で、気分エピソードは完全に消失した。
---------------------------------------------------------------
10. 自殺の危険がある人にはリチウムを使って下さい。その上で、入院、家族に服薬管理をしてもらうなどの安全対策を考えます。
これは大事なので覚えておいて欲しいんですが、すべての精神的薬剤の中で、自殺を予防できるのはリチウムだけなんです。
精神科的疾患の患者は自殺したり、心臓血管系の病気で死んだりするんですが、その場合の死亡率をリチウムは低下させます。
双極性障害での自殺のリスクは重大、っていうのは当然だけど、入院したことのない患者さんだと約5%、入院したことがあるとか重症患者になると10-20%です。
ですから入院したことのある双極性障害患者さんには必ずリチウムを使うべきでしょう。また、自殺をしようとしたことがある、そうでなくても、自殺の重大な危険があるという場合� ��は、リチウムを忘れないで下さい。
リチウムの自殺予防効果はリチウムの気分への効果とは関係無いものと考えられています。
自然治癒にきびの薬最高のにきび治療
つまり、双極性障害で気分の変動による症状にリチウムが効いていないと判定される患者さんでも、自殺予防効果はあるというのが研究結果です。不思議ですね。
大量服薬の危険がある場合などは適切な安全策が必要です。たとえばリチウムの処方は1ヶ月以内にする、一週間分以上の薬は家族に薬の管理をしてもらうなどの対策を考えましょう。
でもね、実際、自殺既遂は思わぬタイミングで起こる感じがします。
少しでも危険だなと感じたら何とか出来るかもしれないと思いますが、そういう場合は未遂が多い気がする。
「そうは思わなかった」「思いもかけなかった」というタイミングで自殺既遂が起こってしまいますから、そこは� ��々心すべきことといえるでしょう。
自殺で死なないようにリチウムを出すと言っても、リチウムは中毒しやすいわけだし、簡単ではないです。
----ヒント--------------------------------------------------
自殺の危険のある患者さんの全てにリチウムを少量でもいいので加えることを考えよう。
-------------------------------------------------------------
11. だいたい全部一日一回投与でいい。
大部分の医師がリチウムやバルプロ酸を処方するときに、一日に2回か3回飲むように処方しているのはよくないと思う。
まず薬理学的な理由がない。半減期を考えるとそんなに頻繁に飲まなくても、血中濃度を維持できる。
リチウムに関して言えば、むしろ一日一回服用にした方が、慢性腎機能障害の長期リスクは顕著に減少する。
薬は全部そうなんだとけど、一日に何度も飲む場合には指示を守れない割合が高くなるでしょう。飲み忘れとか、スケジュールがあわなくて飲めなかったとか。
だから、双極性障害での服薬はどの薬も、一日一回にしたいですね。例外は多少あるとしても。
この例外というのは、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、ガパペンチン、トピラメート、ジプラシドンで、これらは一日二回服用がいいと思います。
一日三回服用はやめたほうがいいです。可能だと思いますよ。
まあ、それはそうなんだけど、別の理論も戦略もあることをお忘れなく、と思います。
プラセボ効果を高くするにはどうするかと考えると、一日複数回投与なんです。まあ、その話は別枠ですね。
12. 精神療法は再発予防に有効です。 きちんと精神科医に通院して精神療法を受けてください。
精神療法の主な役割は何かといえば、長期に渡り気分安定させることでしょう。急性躁病や急性うつ病エピソードからの回復に役立つよりは、長期効果が主眼です。
特に、認知行動療法、対人関係療法、家族療法は、気分安定薬の効果を助けて、将来の気分エピソード再燃を予防します。
さらに、これら精神療法は、双極性障害のエピソードから回復した患者さんに残った機能障害からの回復を手助けするでしょう。回復と言うよりは残遺機能の活用と言えばいいでしょうか。
この点は特に重要です。薬物療法が双極性障害のエピソード症状を改善することは分かっているのですが、エピソードのあとに残遺する社会的・職業的機能不全が顕著なことがあり、患 者さんはそれに苦しみます。
残遺機能障害に対処するためには薬剤では無理で、精神療法が必要とされています。
まあ、薬剤では無理なんで、精神療法で何とかしてくださいという意味なんですが。
だれか工夫して下さい。
例えば、てんかんの発作を止めるまたは予防するについては、薬剤が有効です。しかしてんかん発作の結果として、脳神経細胞が失われ、機能欠損が残遺した場合、薬剤で再建できるわけではないですね。ディフエクト(defect)といいます。
その場合の精神療法は、統合失調症でいう、SSTのようなものになると思います。
例えを変えて言えば、脳血管障害で運動機能障害が固定したとするでしょう。
その場合、少なくとも、食事ができるようにとか、排泄ができるようにとかが目標に� ��ります。
それは薬で機能を回復するのではなく、残った機能を組み合わせて何とかやりくりするのが実際のリハビリになります。
そのような意味での精神療法は、認知行動療法、対人関係療法、家族療法のいずれでも目指していないので、私は不満ですが、しかし薬でどうしようもないし、これからの新しい精神療法に期待しましょう。
私のやりたいことははっきりしていて、ジャクソニスムの原理に従って下位機能から順に再建し、再建できない部分は下位機能を組み合わせて、QOLを維持できないか、だましだましの戦略で何とかしようというものです。
実際どうするのかといえば困るんですが。
13. 治療同盟が大事。医師が精神療法の専門ではなくて薬理の専門でも精神療法的治療が大事。一回は短くても� ��繁なら効果的。それ自体が気分安定薬的です。
いろいろな事情で精神療法は無理という場合も多いですね。
前述の3つの精神療法にしてもそんなにたくさんの医師が行なっているわけではないし、時間もお金も必要だし。
それが現実なんだけど、実は精神薬理の医師にもできる精神療法的なことがある。
20-30分の時間の面接でも、精神療法のエッセンスを実践することはできて、その態度はロジャース的・支持的とか精神分析的いうだけではなくて、実存的と言っていいと思う。
医師と患者はお互いにより良く知り、理解し、信頼する。
残念なことだけれど、マネージド・ケアの時代になって、支払いが渋いので、医師が收入を確保するには、短い面接を数多くこなすことが必要になったわけです。
外来� ��リニックの医師はたくさんの患者を診察しないといけないので、患者の来院間隔が長くなって、しばしば3ヶ月以上、ときには年に一回とかになっています。薬だけでいいやと思うんでしょうね。
こういう状況だと治療同盟も難しく、患者は医師への信頼を育てることもできず、医師が患者を理解することもできない。
その結果として薬剤選択に間違いが生じ、さらにその結果として治療がうまく行かない。
双極性障害の患者は定期的に頻繁に診察を受けたほうがいいです。特に症状がある時は面接が必要です。
症状が悪い時には、面接の予約が取れて、その時間まで待てば話せる、聞いてもらえる、ということそれ自体が気分安定剤的に働きます。
症状がひどい時には実存的人間関係などは二の次だと思います� �、そういう切羽詰まったギリギリの時もよく話し、頻繁に面接しているうちに関係が育ってゆくんです。
この治療同盟の重要性は何より大切だと思う。
14. 精神療法が有効なのは若くて新規に診断された人。病気との関係をやりくりする必要のある人。
新規に診断された患者では、共感的で病識獲得志向的な精神療法が有効で、双極性障害という診断名と自分との関係をつくることの手助けにもなる。
うつ病と診断されるよりも双極性障害と診断される方が患者には受け入れにくいみたいです。
疾病教育からはじめて、徐々に患者が双極性障害という診断名と折り合いを付けられるようにしていくわけです。
自己の感覚、アイデンティティ、自己の価値などと双極性障害を関係付けます。
私の経験では、このほとんど哲学的な精神療法がしばしば有用であり、患者は病識獲得を促されます。これは実際に経験して体得するもののようで、勉強することは難しいように思� �れます。
普通、病識が問題になるのは統合失調症の場合が多いんですが、双極性障害の場合にも病識欠如があるというのは昔から言われていることです。
とくに爽快気分とか充実感とかが本来の自分だと自然な確信を持って信じているわけで、それを「病気なんだ」と納得するのが難しいことはよく分かります。
もちろん、エピソードの直後には、どの人も理解しているのですが、圧倒的に、忘れるみたいです。忘れたいというのも半分でしょうが。だから繰り返すんでしょうね。
15. 病識があり、副作用を理解し、服薬に伴う不便を理解していないと、服薬継続が難しい。
患者教育して、副作用とできるだけ妥協し、可能な限り一日一回服用にする。
双極性障害患者の約半数は躁病症状の病識がない。病識 がないと服薬順守が難しい。結局治療もうまく行かない。
副作用も服薬順守を悪くする。
特に体重増加と認知障害が最近の多くの気分安定薬で起こる。
一日に何度も服用するのは不便だし、規則正しく服薬するのも簡単ではない。
医師は双極性障害患者を教育して、脅かすような態度ではなく、気長に時間をかけて、病識を獲得していただく。
副作用を軽んじてはいけない。
医師は服薬量と血中濃度をよく検討し、可能な限り副作用の出ない少量に調整する。
症状と副作用を体験しているのは患者なので、結局は医師と患者の共同作業であることを理解していただく。
医師の役割としてはまず患者に適切な治療選択肢を示すこと。たとえば、ラピッド・サイクラーでは抗うつ薬は使わずに効果の可能性のある気分安定薬をいくつか提案すること。
効果と可能性のある副作用を公平に述べること。
どの薬剤を選択するかどの順番で服用するか、患者にも参加してもらい決めること。
自分で考えて自分で決めたことなら、守れるという人も多いわけ。
この決定プロセスは科学的に健全であり、服薬順守を最もよく促進するだろう。そして治� ��同盟を固くするだろう。 また、一日一回の服薬に決定すれば、服薬遵守しやすいし、患者の生活の質(QOL)を大いに増進するだろう。
----------●症例スケッチ●--------------------------------
26歳女性、反復性うつ病を主訴として来院。双極性障害の診断で治療されている。
カルバマゼピンとベンラファキシンが投与され、彼女はどちらの薬剤も気に入っている。
彼女はかなり重症の大うつ病エピソードを毎年1ヶ月、もっと軽いうつ病を毎年2週間反復していて、もう少し良くなりたいと希望している。
しかし、これら薬剤での治療前よりは症状は現在ずっと良くなっている。
医師は可能なかぎり患者が進んで納得したうえでの治療が大切という原則の重要性を理解している。
患者に決定を告げるのではなく、選択肢を提示して、選ん でもらうのがよいと医師は知っている。
そこでカルバマゼピンの持ついろいろな薬剤相互作用を説明し、カルバマゼピンがベンラファキシンの血中濃度を低下させていることを説明する。
また、ベンラファキシンに関して、他の抗うつ薬に比較して、双極性障害での有効性と安全性のエビデンスがないことを説明する。
随分してから、彼女はカルバマゼピンからオキシカルバゼピンへの置き換えに同意する。
そしてベンラファキシンを徐々に減薬することに同意する。
こうした緩やかな変化に6ヶ月かかる。
オキシカルバゼピンで以前のニ剤とおおむね同じだと次第に感じる。
1年経って彼女は少量のリチウム上乗せに賛成し、その後は、年に二、三回、一度に数日のうつ病を経験するだけである。
--- ---------------------------------------------------------------
私が思うに、医師は双極性障害患者に何をすべきか告げている又は告げようとしているようだ。
患者が「何々の場合にはどの薬剤が第一選択か?」と質問したとして、その場合、何が第一選択薬かの決定の責任は医師にある。
実際、医師は最新の文献や自分の経験を根拠にして意見を考えているし、その医師だけの責任で第一選択薬を決めているわけでもない。
しかし医師よりももっと大きな割合で、患者が決めなければならない。
その決定に従って生きて、副作用を経験するのは患者だからだ。
私が観察したところでは、医師が患者のために薬剤決定をすると服薬順守をしない患者が多くなる。パターナリズム(父権主義)である。
薬剤決定プロセスに患者� ��参加させると薬剤順守の割合は高くなる。
自分で決めたことだから守るのだろう。
ただ、明らかな例外はある。
一部の患者は医師が半ば勝手に薬を決定してくれればいいと思っている。
しかし合衆国では最近では、このタイプの患者は少ない。
一部の医師はシゾフレニーのような低機能の患者に慣れているだろう。
シゾフレニーの場合には医師が治療を決定するのが普通である。
しかし双極性障害では同じアプローチはしないほうがいい。
双極性障害の場合には一方的に決定されることに腹を立てるだろうし、そのときは、治療同盟が決定的に損なわれるだろう。
16. 長期戦の構えで行こう。早くて簡単な反応が最後までいいことはめったにない。
医師と患者が長期にわたって協働すれ� ��、たいていの患者は回復する。
治療同盟が双極性障害では特に大切である。
治療は長期のプロセスだからである。
回復は通常極めて徐々にであり、ひとつの気分安定薬の次にもうひとつの気分安定薬を試し、そのようにして改善は徐々に進む。
急速に反応してそれが持続するということは少ない。
患者は勉強して、そのような簡単な回復はないと諦める必要がある。
-----ヒント-------------------------------------------------
双極性障害では薬剤が早く反応するよりもゆっくり反応したほうがずっといい。素早い反応はすぐに消え、ゆっくりの反応は持続することが多いからである。
-------------------------------------------------------------
それぞれの患者がある薬剤に反応したとして、気分安定薬のどれかあるユニ� ��クな組み合わせに反応するユニークな生物学的特性があるのだと考えられる。
少数の患者の場合、その反応する薬がたった一つのこともある。多くの場合は、2つかそれ以上の組み合わせになる。
その特別な組み合わせを時間をかけて見つけるのが医師と患者の共同作業である。
その過程では、多くの組み合わせが試され、結果によって、一部又は全部が失敗として捨てられる。
患者はまじめに取り組む必要があるし、医師は信頼を失わないようにしなければならない。両者にとって、強力な治療同盟は治療という建物を支えている壁のようなものである。
【こういう比喩が分からんですなあ。日本語だと柱というところなんでしょう。石の建物は柱ではなく壁で構成されるんですかね。】
17. 絶望と、長期� ��療患者のうつ病を鑑別せよ。
双極性障害治療の長期治療で最も多いのは症状閾値下慢性うつ病でしよう。
症状閾値下というのは症状にはならないけれども健康でもない、症状になる閾値を超えない程度のうつ病ですね。
不幸といっても少しだけ、完全に元に戻ったというほどには回復していない。
この状態を医師は、残遺うつ病と解釈します。
双極性障害のうつ病側の症状ですね。
いろいろな薬、特に抗うつ薬で治療されますが、無効に終わる。
副作用は多くなり、効果は少なくなり、生活の質が低下する。
そしてしばしば患者は諦めて、服薬を中止し、それまでの薬剤から得ていたわずかな利益も失ってしまう。
私の感じでは、そうした患者は「中等度うつ病」なのではなくて、むしろ絶� �しているのだと思う。
彼らが失ったすべてのものへの絶望、過去に失い、二度とは取り戻せないものへの絶望。離婚、銀行残高、人間関係、時間。この絶望を癒すものは2つ。時間と人間関係。
医師に必要なのは患者を見つめ続けること。
薬剤で混乱させることなく。
行くたびに薬を変えてもらうために会うのではなくて、むしろ、最終的にベストな気分安定薬が得られて、医師は患者とただ単純に一緒に存在していることがゴールになるべきだろう。
そうすれば長い時間の後、絶望は希望に席を譲り、過去の失敗が人生の未来をあらかじめ台無しにするようなこともなく、人は未来を生きることができるようになるだろう。
こういうのを、「医師がそこに存在することが、患者の精神を癒す」、という点で� �実存的精神療法と言っている。「何をしてくれる」(to do)ではなくて「存在していてくれる」(to be)が本質ということ。
そういえば、キリスト教的神はどんなに何かお祈りしても沈黙を守ったままで、
どちらかと言えば to do の神ではなく、 to be の神だと思う。
つまり人間と神は実存的精神療法的関係にあるわけだ。
あの人も苦労して生きているんだし、私も辛くても生きてみよう、とか思います
0 件のコメント:
コメントを投稿